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名古屋高等裁判所 昭和43年(ツ)1号 判決 1968年2月08日

上告人(控訴人・原告)

北畑豊助

代理人

石本理

被上告人(被控訴人・被告)

吉田正行

外一名

代理人

堤敏恭

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は別紙のとおりである。

一上告理由第一点について

所論は本件農地の所有権移転については農地法第三条第二項の県知事の許可がなされることの許されない場合にあたるから県知事のなした本件許可は当然無効というべきであるのに、「原判示のごとき特段の事由が存するときは右のごとき違法な許可もこれを当然無効ならしめる重大かつ明白な瑕疵とはいえない」旨の原判決の判断は法令の解釈を誤つた違法があり、ひいては理由そごの違法があるというのである。

そこでまず農地法第三条第二項に違背してなされた県知事の許可の効力について考察する。

おもうに農地法第三条第二項によると、同項所定の場合県知事は小作地の所有権移転等について許可することができない旨定められているが、その趣旨はこれによつて農地の移動などに関する許可基準を明確にし許可制度の適正を期そうとするものであるから、その強行法規たる性格を帯びていることは否定し得ない。しかしながら、右法条ことに同条第二項第五号の違背のうちには、その瑕疵の違法性きわめて高度のものから瑕疵の違法性のはなはだ薄いものにいたるまで、幾多の態様が考えられるのであるから、これを一律に当然無効とする見解には疑なきを得ないのである。また右条項は前記のごとく許可要件を積極的に掲記する方法を避けて所定の場合許可することができないというような規定形式をとつているけれども、それも単なる立法技術上の便宜からなされたことで、これに違背した許可の効力を一般行政処分とことさら別異に取扱う趣旨にいでたものとはおもわれない。けだし農地法自体のなかにも効力規定についてはこれを明規した条文が存するにかかわらず(同法第三条第四項)この場合にはそのような規定が設けられていないからである。

してみると、右の第三条第二項第五号に違背する県知事の許可も一般行政処分の瑕疵と同様、その瑕疵が重大かつ明白なときに限り無効とし、瑕疵がその程度に達しないときは取消事由となるにしても当然無効にはならないものと解するのが至当である。

したがつて原判決が豪雪という異常事態の発生のため被上告人天谷がやむなくその農地の一部を耕作の事業の不可能となつた期間に限り一時的に他人に耕作させたという特段の事情を認定し、本件農地についての県知事の許可に違法の点が存することを認めつつ、しかも、右のごとき特段の事情からみてその違法は重大かつ明白な瑕疵とは到底いえない旨説示したのは相当であつてこれを是認することができる。

よつてこれと結局同趣旨にいでた原判決には所論指摘の法令解釈の誤はなく、またもとより理由そごの違法も存しないから論旨は理由がない。<以下省略>(成田薫 布谷憲治 黒木美朝)

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